文化産業科学学会 学術雑誌特別号(査読付き)について

学会誌特別号 NO.1(英語/日本語)


日本の“心”の継承と国際展開

~日本文化とグローバル教育~

 

学会誌特別号(2018年度号)

 

 

表千家 若宗匠 千 宗員

 

京都吉兆 総料理長 徳岡 邦夫

 

文化産業科学学会 学会長 石山 徹


 

 

.『日本の“心”の継承と国際展開 ~日本文化とグローバル教育~』の背景

 

 本誌は,「表千家 若宗匠 千宗員様」,「京都吉兆 総料理長 徳岡邦夫様」と私の3者で,『日本の心の継承と国際展開 ~日本文化とグローバル教育~』というテーマの鼎談をもとにした学術雑誌の特別号です。


 本誌は,「1章 日本の文化教育,2章 国際交流・教育,3章 日本文化の国際展開・貢献可能性」という3章構成です。

 上記のようなテーマを設定した理由には,日本の教育界が2020年に戦後最大の教育改革が行われることが関係しています。


 2020年に大学入試システムが変化し,既存の「知識重視型のテスト」から,「個人の表現力(エッセイや面接等)や社会活動での取り組み内容や実績」に,徐々に比重が移ることが予想されます。

 同時に,企業等の就職試験も,上述したような要素に比重が傾きつつあります。これは,現代の社会人の求められる能力や資質が,これまでとは異なってきたことにも関係します。では,具体的には,必要とされる能力を端的に表すと,「①コミュニケーション力,②主体性,③実行力」が挙げられます。


 現代日本の成熟社会・成熟経済において,上記の3つの能力は,「①成熟経済・成熟社会ならではの難易度が高く,より複雑な課題に取り組むうえで不可欠な,②自ら創造的に解決するための資質であり,基本的能力基盤」として掲げられています。このような変化は,グローバル化した現代社会では,これまでのような作業効率や暗記重視では対応できなくなったためとされています。

 上述したような教育方針,教育コンセプトの大転換は,これからの「日本人の未来像」にも大きく関係してくるため,あらゆる分野の日本人にとって重要なテーマと言えます。

 

 

.今後の日本のグローバル教育の課題と日本文化との関係性

 

 2020年の大幅な教育改革に伴い,日本の教育は「本格的なグローバル教育」に移行していきます。この本格的なグローバル教育への転換にあたって,1つ,大きな課題があると考えます。
 それは,「①本格的なグローバル教育の推進を進めながらも,②日本人としての自国の文化や精神,思想などを理解・習得・体現し,③異文化や異国の人間に対しても,客観的かつ魅力的に表現できる国際人としての日本人を養成できるか」といった課題です。


 このことは,「グローバル化と言いながら,単なる西洋化,欧米化,あるいはアメリカ化することではない」ことを意味しています。

 このように考える理由としては,「①グローバル化したときこそ,自国文化や思想,精神が重要であり,②世界の中の日本人としての意義やオリジナリティーを体現し,③日本人としての魅力やプレゼンスをいかに発揮していくか」ということが望ましいグローバル教育の基本姿勢だと考えるためです。


 上述した背景を考慮し,本鼎談では,日本文化の思想や精神,あるいは性格や気質などを基軸に,日本式のグローバル教育の可能性や方向性,ビジョンについて言及しました。

 

学会誌特別号 NO.2(英語/日本語)


Cuisine for Sustainable Development Goals

~Life Below Water~

 

学会誌特別号(2021年度号)

 

オリヴィエ・ローランジェ / OLIVIER Roellinger

ルレ・エ・シャトー  副会長

 

山口 浩 / YAMAGUCHI Hiroshi

神戸北野ホテル 総料理長

 

石山 徹 / ISHIYAMA Toru

文化産業科学学会 学会長


 

 本誌,「文化産業科学学会 学術雑誌特別号No. 2」は,世界的に著名なフレンチシェフであり,世界中で厳選されたホテル,レストランオーナーが所属する世界最大のホテル・レストランネットワーク組織の「ルレ・エ・シャトー」の副会長であるオリヴィエ・ローランジェ氏,ルレ・エ・シャトージャパンの副支部長であり,神戸北野ホテルの運営会社代表取締役および総支配人・総料理長であるの山口浩氏,と私( 石山徹) との鼎談がきっかけで執筆された学術論文です。

 

 三者の共通した問題意識は,「海洋資源のサステイナビリティ(「持続可能性」という意味)」に関するもので,国際連合が2015 年に提唱した「Sustainable Development Goals(SDGs)」にも関係します。

 オリヴィエ氏などの取り組みにより欧州では,海洋資源のサステイナビリティの動きが高まっており,魚種によっては資源利用が再開できるほどまで資源量が回復しています。このような欧州での海洋資源の取り組みは,世界中で参考にされ,日本でも海洋資源の動きが注目されるようになってきました。しかしながら,日本の海洋資源のサステイナビリティーの実現は,漁業従事者の多大な努力や工夫だけでは限界があり,西洋の漁業のシステムや法律と比較すると,遅れていると言わざるを得ない状況にあります。

 加えて,欧州と日本の海洋資源問題に関する決定的な違いは,「海洋資源のサステイナビリティに関する社会認識や社会啓発の次元」にあると考えます。端的に言えば,「海洋資源のサステイナビリティに関するリテラシーや情報量」が欧州と日本では決定的な差があるように感じます。

 日本は,人口が1 億2000 万人を超える大国ですが,食料自給率が先進国の中でも著しく低く,食料の多くの部分を輸入に頼っています。そのような日本の厳しい食料自給の状況にもかかわらず,日本では食料保全や生産等に関して,高等教育などで体系的に学べる環境も確立されていません。高等教育として食料,食文化に関して,専門分野に関わらずに体系的に学べないことは,大きな社会的損失になるのではないかと考えます。なぜなら,海洋資源の大部分を消費する人は,海洋資源を専門とする従事者や専門家でなく,一般消費者や飲食業界などのためです。

 よって,消費者が海洋資源のサステイナビリティに高い関心を持ち,保全活動をしている食材や組織の商品やサービスに対して,消費者が正当な経済的対価を支払うことが重要です。

 これは,言葉にすると簡単ですが,「サステイナビリティに寄与する経済サイクルを社会化」するとなると,東西文化差や社会制度水準,産業システムの違いなどがあり,簡単に実現できるものではありません。

 食料は,安全保障の重要要因です。日本は,食料自給率が低い傾向にありますが,海に囲まれた島国なので,海洋資源には恵まれた環境にあります。しかし,この海洋資源量が世界的に激減しており,日本も同じ状況にあります。

 今,日本に求められていることは,①欧州の海洋資源のサステイナビリティの取り組みを参考にしながらも,②欧州とは海洋資源に対するリテラシーや社会制度,産業構造,文化,慣習等が異なる日本の状況で,③日本の現状や実情でも実現可能で,日本の環境や文化を考慮した海洋資源のサステイナビリティの実現のための具体策を開発すること,ではないかと考えます。

 

 本書は,近年のSDGs 等の動向を踏まえ,海洋資源のサステイナビリティを目的とした料理や食文化,社会連携システムに関する理論と,具体的な方法論について報告したものです。